とんかつを見にいって得たものとは

父親に突き放されたように言われて、
患者さんはオーバーコートをはおり、
一人そそくさと外に出て行きました。


寒い夜で時刻は10時を回っていました。

母親は心配でこっそりと患者さんの
後をつけていきました。

商店街のとんかつを売っているお店の
前にたどり着くと、患者さんはそこに
佇んだまま動かなくなりました。

じっとお店の人がとんかつを揚げる
ところを見つめていました。

でも一向に買う気配はありません。

10分くらい経ったでしょうか?

急に患者さんはとんかつに背を向けて
とぼとぼとうなだれながら
お店の前から離れていきました。

そして、様子を伺っていた母親と
出会いました。

2人は一切言葉を交わさないまま、家
に着きました。

結局とんかつを買わず、食べなかった
患者さん。

寒い日の夜にとんかつを見に行ったのは、
何を確かめるためだったのでしょうか?

この患者さんの好きだったのは、お母さんが
家族のために揚げてくれたとんかつでした。

それを拒否してしまった自分。

自分が本当に食べたいのはとんかつそのもの
なのか、それともお母さんが揚げてくれた
とんかつを家族みんなで食べることなのか。

その答えを患者さんは、商店街のとんかつ屋の
前に佇みながらほんの少しはっきりさせる
ことができたのです。

自分が食べたかったのは、他人が揚げたとんかつ
ではないのだと。